炉から出したばかりの鋼のようだった。
 朱々とした小さな光が波間のようにゆらめいていた。

 光はじょじょに上昇して、地平の向こうからだんだんと円型をかたちづくる。
 まばゆさも増してゆく。
 鳥はざわめき、声をあげつづける。開演前の客席のようだった。一つのベクトルへ向かう混沌。
 ひとの気配がしない。あんなにさわがしかった機械の街も今だけは眠りに就いている。

 剣山のように空へ伸び続ける途方もない街並み。スリットを一筋の光が差す。見下ろす光。はじめの朱さはもはや嘘のようだった。日はすでに金色にあふれた全円の光の単結晶。

 瞳孔を焦がす金色の光。
 眩すぎるまんまるの光。
 太陽は大きなスポットライトだった。

 加法混色の円い影が網膜に灼けつきはなれない。耐えきれずに眼を伏せる。緑と紫が視界のあとをちかちかと追いかけた。

 息がまだ白くて密かに驚く。今更寒さと空腹を思い出す。

 足元の雑草も光に照らされている。そのつめたさにふと気が付く。ほのかに濡れている。わきあがるそよ風と寒さの正体を知る。

 葉に、朝露がおりていた。

 その一つ一つをスポットライトが差して、橙や紫の光がさざめいていた。葉はみんな金色の光子をまとっていた。

 夕焼けよりもずっと静かな光景だった。
 人々はまだ眠りに就き、辺りには鳥の声ばかりする。人間はどこへ行ってしまったんだろう。

 何でこんなことしてるんだろうとバカらしくなる。そんなに奇跡的なことではない。「日が昇った」ただそれだけのお話。

 なのにどうして、たった独りで、立ち尽くしているのだろう。

 目の前で夜は明けた。一瞬の出来事だった。めくるめく速度で夜闇は藍に青に白に朱に変貌し、燃えさかる鋼は冴え冴えと視界を刺すピンライトだった。
 今もなお焦げついている緑と紫の影。容赦なく眩いスポットライト。瞳が灼かれる。
 けれども、どんなに眼を伏せても眼を逸らすことはできない。太陽はこの街をみんな照らした。

 それはあまりにもきれいだった。
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